コラム

ラーメンを食べながら

1999年7月20日

 

予備校で世界史を教えていた頃、いや日本史だったか、遠い昔のことですっかり忘れてしまったが、憶えているのは予備校の近くの蕎麦屋にいつも出前を頼んでいたことと、ゴム長で出前に来た兄ちゃんの顔。正式にはカレー丼というのか、蕎麦屋のカレーライスと、なんの工夫もしてなさそうな蕎麦屋のラーメンが意外にうまいことをそのときに知った。

意外にうまかったといえば、タケシが小渕首相を評して言ったという、「海の家のラーメン」もそうだ。

事務所のある高田馬場はラーメンの激戦地といわれている。明治通りと早稲田通りが交差する周辺にラーメン屋がいくつも軒を連ねている。そのうちの何軒かは行ったことはあるが、しかしまだ癖になるようなラーメンは知らない。それよりも、この間早稲田の「メルシー」で何年か振りに野菜ラーメンを食べたらやっぱりうまかった。今度はもやしラーメンを食べに来ようと思わせるだけの力が確かにあった。新宿には「桂花」ラーメンがある。熊本ラーメンだ。たまに食べることはあるが、鹿児島ラーメンの方が数段上だと思う。もっとも東京にはうまい鹿児島ラーメンの店はない。渋谷の「喜楽」もよく行ったものだが、改装してから店の空気がなんだかうまくなくなった。

博多では「一風堂」のラーメンを食べたがたいしてうまくなかった。それより、環七沿いの「なんでんかんでん」の方がよさそうだ。いつも車を止められないまま悔しく通りすぎているが、車から見える行列はただごとではない雰囲気を漂わせている。

沖縄には沖縄そばという、日本そばよりはラーメンに近いものがある。初めて沖縄そばを口にしたときは、とても食べられないと思ったが何度も食べているうちに慣れた。でもこの間久しぶりに注文したら、食べるのに苦労した。沖縄そばだけは、申し訳ないがまず基本的にうまいものではないような気がする。

ラーメンは精神的な食べ物だといわれる。確かにそうだと思う。心が欲し、心が充たされる。しかし、そんなことを言ったら食べ物に精神的でない食べ物などあるだろうか。どんな食べ物も、程度の問題はあっても、心が食べるのである。

そんなことを思いながらラーメン屋のテレビを見ていたら、どこそかのセクシャル・ハラスメントを話題にしていた。レポーターが関係者の家に押しかけていってマイクを突き付け「どうしてなにも応えないんですか」などという。前から思っていることだが、セクハラなんかより、こういう横暴なマスコミ・ハラスメントの方がよっぽどひどい。テレビに続いて登場したどっかの自己啓発セミナーの定説によると、こういうマスコミの手合いは「クソマヌケ」ということになるらしい。「クソマヌケ」は『全国アホ・バカ分布考』に出ているかどうか知らないが、この定説だけは間違っていない気がする。