コラム
郵便ポストが赤いのも
2005年8月20日
織田信長は自殺願望の強い人だったという説がある。世に名高い桶狭間の戦いは、突然の豪雨で休んでいる今川義元の本陣に信長軍が奇襲を掛けるシーンがドラマなどではよく描かれている。しかし、最近の研究によるとどうもそれは奇襲ではなく、正面攻撃だったのではないかとされている。総勢三万の今川方に対して三千の信長軍が正面攻撃をかけて通常勝てるわけはないのだが、自殺願望の強い信長はそこを死に場所と定めて突撃した。兵器の発達している現代なら、そんなことで勝敗がひっくり返るはずはない。ところが一対一で相手と刃を交わして切り結んでいた当時は、戦士たちの気概がなりよりモノを言ったのだ。持ち前の自殺願望が幸いして、信長軍は今川の大軍を破り、信長は一躍天下への足がかりをつかんだのである。
小泉総理は信長が好きで、よく自らを信長になぞらえているという。信長が明智光秀をとことん追いつめたように、今回は亀井静香氏などの反対派をこれでもかとばかり追いつめた。となると、「本能寺の変」がはたしてあるのかどうか、またどこでいつ起きるのかなどと思ってしまう。といっても、やはりこのままでは亀井氏らに勝ち味は薄いように見える。しかし、人は勝つことだけが栄光ではない。敗れる栄光もまたあるのだと言いたい。
ところで、「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも、みんな郵便局が悪いのよ」とでも言いたげな小泉自民党の論調だが、ニュージーランドでは郵政民営化を進めた結果、郵便局の閉鎖や農村部での配達料の値上げが生じ、安全性やプライバシーが低下した。また、民営化された郵便銀行は外国資本に買収され、低所得者層が金融サービスを受けられなくなったという事実がある。
それから、米国政府や米国経済界が郵政民営化をわが国に強く要求しているのは、郵便貯金がある限り米国金融資本の日本進出がままならないからである。メリルリンチが、山一証券を買い取って日本進出を図ったことはまだ記憶に新しいが、結局郵便貯金の厚い層に阻まれて個人顧客を掘り起こせずに日本から撤退せざるを得なかった。しかし、いったんは煮え湯を飲まされて引いたが、そのまま黙っているわけがなかった。米国政府を巻き込んで、小泉氏を動かし竹中氏を使って、郵政民営化を推進する戦略に打って出たのである。