コラム

道化師たちの9月

2005年9月20日

 

この10年で日本社会はずいぶん変質した。そのことの是非を問うたのが、今回の選挙だったと思う。いままでに何度か選挙があったが、まだそのときではなかったのだ。今回の選挙には珍妙な候補者たちがぞろぞろと出てきたが、彼らはそのときが来たことを街々に触れ歩く道化師の役回りだったのだ。もちろん小泉首相にしても、この大きな流れの中では歴史に選ばれた、いわゆるトリックスターの1人に過ぎないのだが。

そして結果は、有権者の半数近くが日本社会の変質を是としたのである。これを「日本人は鏡に映る自分の顔に向けてツバを吐きかけた」と評した人もいる。「彼らをお許しください。自分が何をしているか知らないのです」。ルカ書の中に出てくる、十字架に付けられたイエスの言葉を思い出した。

気になったので、昭和17年4月30日に実施された「翼賛選挙」のことを調べてみた。まず、当時の議会がどうだったか。昭和15年2月に斎藤隆夫演説事件というのが起きている。民政党代議士斎藤隆夫が衆議院本会議で、政府の日中戦争処理を「いたずらに聖戦の美名に隠れて、国民的犠牲を強いるもの」だとして批判したものだが、この演説に陸軍などが反発して斎藤は議員を除名されている。

翼賛選挙は、陸軍が議会を支配下に収めるため、現職議員を一掃しようと候補者推薦制度による総選挙を計画したものであった。選挙結果は推薦候補の8割が当選し、その多くが新人だった。投票率は、なんと普通選挙実施以来最高を記録したとある。

ときどき、日本人でいるのをやめたくなる。野村進の『アジア定住』を読むと、多くの日本人がアジア各地でけっこう楽しそうに暮らしている。なんでも、16万人以上いるらしい。なにも日本列島にしがみついていることなんかないんだと思う反面、日本から離れたためによけい日本を引きずっているところもあったりして、やれやれという思いになる。