コラム
もう、イキガミを読みましたか
2007年6月20日
アカガミをもじったイキガミというタイトルの漫画がある。帯を見ると「命の大切さと生きる意味を教えてくれる(31歳主婦)、「熱いものが込み上げてきて、生きるということを考えさせられた(19歳学生)」などの読者のコメントが載っている。漫画の舞台は現在の日本。「治安維持法」ならぬ「国家繁栄維持法」という法律で、全国民が小学校入学時にある予防接種を受けることを義務付けられている。その注射器には1,000人に1人の割合で特殊なナノカプセルが入っていて、若者が18歳から24歳までの予め設定された期日になると作動して若者の命を奪うようにセットされている。生命の価値を国民に再認識させて、犯罪件数を減らし、社会の生産性を向上させるために作られた制度だという。その若者が自分の運命を知らされるのは、死の24時間前と決められている。区役所の専門の職員が死亡予定者に死亡予告証、通称イキガミを届けに来るという設定である。この「国家繁栄維持法」に反対するものは、家族にいたるまで退廃思想者として迫害される。
これはいちおう漫画の話である。しかし、現実においてもおよそ政府というものは、人々にとって有益な面ばかりを持つわけではない。ときに、どう猛なキバをむくときがあることを我々はよく知っている。アカガミもそうだった。クリント・イーストウッドが描く『硫黄島からの手紙』にもそういうシーンが出てくる。
そのことを、あらためて思ったのは、遅ればせながら佐藤優の『国家の罠』を読んだときである。この本には「外務省のラスプーチンと呼ばれて」という副題が付いているが、佐藤優とは外務省のロシア外交を担当する職員で、鈴木宗男と一緒に逮捕されたあの人である。佐藤優は日本政府だけでなく、マスコミにも袋だたきにされて、拘置所に500日あまり拘留された。それで、完膚なきまでにたたきつぶされたはずだった。
だが、佐藤優はただの人間ではなかったのだ。カエルみたいな顔をしているが、実はみかんだった。日本政府は佐藤優というみかんを押しつぶしたのだ。英語のエクスプレス(表現)には、実際みかんを押しつぶすという意味もあるが…。みかんを押しつぶすとどういうことになるか、この本を読むとよくわかる。