コラム
ラオスに降る雨
2009年6月20日
ラオスに行くことになった。ラオスだけではない。結構ハードな仕事のスケジュールで、カンボジアやタイの山間部にも行くのだが、ラオスは特にどういう国か分からないので興味を持った。もっとも、カンボジアやラオスによく行っている人から、森に囲まれてのんびりした農業国だということぐらいは聞いていたが、その程度しか予備知識がない。
調べてみると、ラオスの歴史は決して平坦なものではなかった。それどころか、ベトナム戦争の傷跡が今も大きく残っている国であることがわかった。あの悪名高きクラスター爆弾が初めて使われた国でもある。そして、その800万個~900万個が今も不発弾として山野に残っているのだという。のんびりした農業国というラオスのイメージは、決してウソではないだろう。しかしその森はかつてホーチミンルートと呼ばれ、雨あられと爆弾が降ってきた森でもあったのだ。
ホーチミンルートと聞くと、我々ベトナム戦争世代には、懐かしい響きすらあるが、北ベトナムからラオス・カンボジアを通って南ベトナムへと至る共産軍の陸上補給路である。アメリカ軍はこのホーチミンルートの壊滅を一つの目標として掲げていた。空といわず陸といわず、激しい爆撃を繰り返したが、共産軍はこのルートを守りきってサイゴンを陥落させ、ついにはアメリカ軍をベトナムから敗走させたのだ。
ラオスの少数民族のモン族は、アメリカ軍の傭兵として狩り集められ最前線での共産軍との戦闘に投入された。そのため、米軍の戦死者の何倍もの犠牲者を出していたといわれるが、アメリカ軍の撤退時には置き去りにされたために、共産軍に追い詰められ「モン族の悲劇」と言われるような修羅場を見たとされている。モン族は今も社会主義政権となったラオス政府の掃討作戦にあっていて、悲劇はまだ終わっていない。
今年公開されたばかりのクリント・イーストウッド監督の最新作『グラン・トリノ』は、実をいうとまだ見ていないのだが、アメリカに移住したモン族の少年と孤独な老人の交流を描いた映画である。