コラム
ブルートレイン
2010年12月20日
札幌に出張しての帰りだった。札幌駅で千歳空港行きの電車を待っていると、隣のホームにブルートレイン「北斗星」が入ってきた。「北斗星」は、車体はいかにも古く、年季がはいっている様子だった。しかし、せわしなく家路を急ぐ普段着の人々の中に突然正装して現れた貴婦人のようなたたずまいに、思わず目を奪われた。どんな人が乗り込むのかと見ていると、けっこう乗客は多く、シンプルな寝台、簡素な個室寝台、豪華な個室寝台とそれなりに個室が埋まっていくのが見える。
空港行きの電車が来てしまって、ホームを離れるとき、食堂車のランプがオレンジ色の光を灯して、夕暮れ時の北のホームの情感をいっそう引き立たせていた。私は、中島みゆきの『ホームにて』を口ずさみながら、日帰りで来たことをひどく後悔していた。こんど札幌に来るときは、北斗星で帰ろう。そんな思いを強く抱いた。
ところが、しばらくして乗っていた電車の車内放送で再び南千歳で北斗星に接続することがわかった。それで、鉄道ミステリーを考えながらの帰路となった。…札幌駅で知人に見送られて空港行きの電車に乗った男が、替え玉と入れ替わって南千歳で北斗星に乗り換える。男の目指す相手がそこには乗っていた。…
帰ってから調べてみると、北斗星は上野-札幌間を、16時間かかって1日1往復運行していることがわかった。食堂車は「グランシャリオ」と命名され、フランス料理のコースなどのディナータイムが終わると、23時までパブタイムとなっている。…そう、事件の夜、グランシャリオでは何杯もニコラシカをあおる被害者の姿が目撃されていた。…
少し前に廃止されたが、九州にはブルートレイン「はやぶさ・富士」があった。はやぶさは、東京―熊本間を結んでいたのだが、かつては東京―西鹿児島間を走っており、私は故郷の鹿児島から上京するのに、2度ほど乗ったことがあった。「はやぶさ」は、鳥のハヤブサもだが、「薩摩隼人」にもちなんだ命名だといわれている。
西村京太郎の鉄道ミステリー第1弾『ブルートレイン殺人事件』は、「はやぶさ」と「富士」が舞台になっている。「はやぶさ」に乗ったはずの男が、いつの間にか「富士」に乗っていたというトリックの、おなじみ十津川警部シリーズである。
ブルートレインを惜しむ声は多かったが、やはり時代の流れには勝てなかった。考えてみれば、時代は、古いものを容赦なく次々に振り棄てて突き進んでいく特急列車である。この特急列車から、いずれ振り落とされないものはいないの