コラム
サッカーと作家
2014年7月20日
フランスの家族人類学者エマニュエル・トッドによれば、ドイツと日本は似た国である。何が似ているかというと、家族制度である。家族制度は、太古の時代のどこかで母権制から父権制へと変わったと見られているが、それはそのころの世界の中心だったユーラシア内陸から辺境へと広がっていった。日本やドイツの家族制度が似ているのは、日本やドイツがちょうどそのころの辺境に位置したからだという。
日本やドイツが属する「直系家族」という家族制度の類型には次のような特徴があるそうだ。
子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。ドイツ、スウェーデン、オーストリア、フランス南部(地中海沿岸を除く)、スコットランド、アイルランド、スペイン北部、日本、韓国・朝鮮、ユダヤ人、ケベック州に見られる。日本とユダヤではいとこ婚が許され、他では禁止される。基本的価値は権威と不平等である。子供の教育に熱心である。女性の地位はそれほど高くない。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる。
そして、日本やドイツなどの民族が、帝国を形成することができなかったり、形成してもすぐに失敗してしまったのは、直系家族であったための権威と不平等の価値観が強く、自民族中心主義から抜け出すことができなかったからであったと分析している。
多民族からなる帝国が形成されるには、平等がその中心的な価値観を占めなければならないが、ローマ帝国、イスラム帝国、唐帝国は、それぞれ平等主義核家族、内婚制共同体家族、外婚制共同体家族の平等意識に支えられた帝国であったからだという。また、共産主義体制だった地域は、すべて外婚制共同体家族が支配的な地域だった。
これらの家族制度が社会制度に決定的影響を与えるというトッドの主張は、家族がいかに重要な存在であるかを示すものである。トッドは、1976年に発表した『最後の転落』で、10年から30年以内にソビエト連邦が崩壊すると予言して的中させたことで知られている。
ドイツといえば、本屋で本の帯にドイツ・ミステリー大賞第1位とあったのを見かけて、メヒティルト・ボルマンの『沈黙を破る者』を読んでみた。ぐいぐい引き込まれてしまって、最後は読み終えてしまうのが惜しくてたまらなかった。こんなことは10年に一度あるかないかだ。ドイツはサッカーもすごいが、作家もすごいと思った。