コラム

異形の政治家

2018年9月20日

 

ドナルド・トランプは、不思議な政治家である。普通の政治家は、習近平のように国家や自分の権力の拡大に腐心する覇権型か、安倍氏のようにいろいろな勢力を調整してバランスをとる調整型かである。トランプはそのどちらでもない。要するに、狡猾な政治家ではない。かといって、メルケルのようにあるべき政治を求めるタイプでもなく、ただ自分のしたいことをする。誰にも遠慮しない。ジャーナリズムの反発や、アカデミズムの権威もどこ吹く風である。

 

ドナルド・トランプは、政治家の経験もなければ、徴兵免除を受けていて軍隊の経験もない。あるのはただ不動産開発の経験である。それが、覇権型とも調整型とも違う、異形の政治家をかたちづくった。いわゆるデベロッパーとして、成功を重ねて、不動産王と呼ばれるまでになったのだが、おそらくその過程で誰にも遠慮せず、したいことをすれば成功するという、成功の方程式が出来上がったのだろう。

 

中国の拡大路線は、誰の目から見ても目に余るものだった。中国が今日のように発展したのは先進国からの援助があったからだが、それは援助ではなく、権益を求めての投資だったと中国は言い放った。だから恩義などは少しもないと。

 

戦前の日本の歴史を顧みると、先進国から不平等な扱いを受けて、そこから抜け出すのが一苦労だったことが書いてあるが、戦前の日本もおそらく恩義を忘れて権利意識だけが肥大していたのだろう。今の中国と同じようなものではなかったかと思う。しかし、そんな中国に対して誰も何もしなかった。何もできなかった。トランプが出てくるまでは。トランプが、やりたい放題の中国にガツンと一撃を見舞ったのである。なぜか。そうしたかったからである。

 

ドナルド・トランプは、アメリカのような大統領制でなければ生まれなかった政治家だろうと思う。日本では橋下徹が大統領にでもなっていれば、少し似た感じだったかもしれないが、日本のような議院内閣制の下では、トランプになるのはやはり難しかった。