コラム

生ムギ生ゴミ生卵

1999年6月20日

 

マッスルトレーナーといって1キロずつ重りの入っている靴をときどきはいている。手に持ってみると、ビックリするほど重く、1キロというのはこんなにかと思うが、実際に歩いてみるとそれほどのことはない。タカをくくって、この間、新宿まで往復してみた。帰りはさすがに疲れ果てて、あと300メートルぐらいのところでタクシーを止めたくなったが、ぐっと我慢した。今にも倒れそうになりながら歩いていると、近くの酒屋の犬が不審そうな目で見ている。行き倒れという言葉が一瞬脳裏をかすめたが、疲労困憊してなんとか家の玄関にたどり着くことができた。

その靴で30分歩くと、40分遠泳したのに等しいと説明書には書いてある。2時間近く歩いたので、遠泳で言えば160分である。熱海から初島への往復ぐらいだろうか。いずれにしても私の体力ではとっくに溺れて海の底でくたばっている。疲労困憊ぐらいで助かったと思わなければなるまい。とりあえず、ビールで祝杯だ。もともとはダイエットが目的だが、こういうときは一時停止が世の慣わしである。

運動会シーズンになると思い出すが、子供の頃足が結構速かったので小学校の地区対抗リレーの選手に選ばれていた。それで、なんだかよく知らないおじさん達が運動会の1月くらい前になると毎朝卵や牛乳を持ってきてくれた。運動会当日は、小さな穴の開いた生卵を目の前に差し出されて、そこから吸えという。気持ち悪いのを無理して呑んだが、いつもかえって調子が悪くなる気がした。それでもなんて奇特なおじさん達だろうと思ったが、うんとたってから理由がわかった。小学生のリレーで競馬をやっていたらしい。沖縄の離島の方では、小学校や中学校のリレーのためにわざわざ大金をかけて選手をスカウトしてくることもあるという。そこまでして連れてきた選手が負けて夜逃げした例もあると聞く。たかが子供の運動会にと思うが、世に賭け事の種はつきまじだ。

『全国アホ・バカ分布考』という結構厚い本が出ている。言葉としてのアホやバカの分布を調べたもので、大阪を中心とした近畿一円は「アホ文化圏」、名古屋から東海にかけては「タワケ文化圏」、その他は「バカ文化圏」というようなことが長々と述べられている。日本のどこそこにそういう人がいるというような内容ではないので、ひとまずは安心だが、しかし、いつなんどき不埒な企みが現実のものにならないとも限らないから、油断は禁物である。ことによると、もう『全国アホ・バカ紳士録』ぐらいは密かに出まわっているかもしれない。