コラム

アルジャーノンに花束を

1999年9月20日

 

「『アルジャーノンに花束を』は読んでますよね」と当然のようにいわれて、どうだったっけと迷いつつ言葉を濁したが、本屋に行ってページをめくってみたら読んでいなかった。題名自体は前から知っていたし、花束をあしらった表紙もだいぶ前から見なれている。話は面白いので一気に読めたが、どちらかというとこの手の、現実にありえないような話はそれほど好きではない。ただ、タイトルだけはとても気に入った。原題は「フラワーズ・フォー・アルジャーノン」である。気に入った理由は、この小説を読んでもらうしかない。おそらく誰もが気に入るだろうから。

 

気に入った本のタイトルといえば、最近気がついたものでは関川夏央の『ただの人の人生』というのがよかった。なんというか、哀感が滲み出ている。それから、いろいろ思いつくままに、といってもソラであげるとなるとなかなか思いつかないが、ヘミングウェイの『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』の三部作あたりからどうだろうか。ドストエフスキーの『罪と罰』も一応リスト(ん?いつの間に出来たんだろう)には挙げておくべきだろう。マーガレット・ミッチェルの『風とともに去りぬ』もいい。モームの『月と6ペンス』などもどうだろう。ジイドの『狭き門』もそうかな。ガルシア・マルケスの『百年の孤独』などは、雰囲気がいいので焼酎の商品名にされてしまった。同じノーベル賞作家でも大江健三郎の『万延元年のフットボール』などはこうはいかない。大江には確か『われらが狂気を生き延びる道を教えよ』というのがあったが、あれよりは西村寿行の『君よ憤怒の河を渡れ』の方がましというもんだ。しかし、この辺はリストには入れられない。タイトルだけを取れば格が違う。国内ものでは、五味川純平『人間の条件』などどうだろうか。雰囲気といい品格といい申し分ない。タイトルに惹かれて映画を見に行った人も多いはずだ。ちょっと落ちるが、一つだけでは淋しいので安部公房『砂の女』も佳作に入れておこう。ほんとは夏目漱石『我輩は猫である』も入れたいが、雰囲気がなあ、違うんだな、ちょっと。

 

なんていいつつ、われらが二十世紀文学、今年で幕を下ろすのかと思うと、少し寂しい気がしませんか。