コラム
幌馬車の歌
2004年7月20日
戦前の日本で流行したという『幌馬車の歌』。どんな歌だろうか。どうしても聞いてみたくて、レコード屋を探したが、どこにも置いてなかったので、通信販売でCDを取り寄せて聞いてみた。
「夕べに遠く 木の葉散る 並木の道を ほろぼろと 君が幌馬車 見送りし 去年(こぞ)の別離(わかれ)が 永久(とこしえ)よ ♪」
唱歌と演歌の入り混じったようなメロディーが流れ、ジンタのリズムに合わせて和田春子というなんだか固苦しい名前の歌手がかん高い声で歌う。それなりに雰囲気はあり、悪くはないのだが、はっきり言って詞も曲も完璧にB級の流行歌である。幌馬車だから、「ほろぼろと」というところが、いかにもB級風で可笑しい。
日本の敗戦のあと、台湾では中国本土からやってきた占領軍に抵抗した市民や学生が捕えられ処刑されたのだが、次々と看守に呼ばれて仲間たちに静かに別れを告げ、刑場へと引かれてゆく中で歌われていたのが、この『幌馬車の歌』だったという。
最近、通信販売を利用することが多く、注文してなにか届くたびに周囲から「また通販ですか」と笑われているが、弁解をするとすれば、現代日本のような商品洪水の中で確実に欲しい商品を探すにはインターネットと通信販売の利用がもってこいである。書籍やCD、DVDなど種類の多い商品は特にそうだが、ともすると電気製品や家具、日用雑貨のようなものまで、インターネットで探すと隠れていた商品があふれるほど湧いてくる。
通信販売は、もともとアメリカのような広大な国土の中でこそ存在意義があって、日本のそれは、どちらかというとニッチな需要をねらった怪しげな市場のようにかつてはいわれていた。それが、商品洪水という大きな環境変化とインターネットの普及によって、通信販売はなくてはならぬものになりかけている。
しかし、日本発の現象ではないかと思われる、この恐ろしいほどの商品洪水は、有効需要を作り出して経済成長を維持するという面ではいいかもしれないが、放っておくと地球上の資源を浪費しつくし、やがて完全に食いつぶしてしまうのではないか、と他人事のようだが多少心配になる。