コラム

赤き唇

2005年3月20日

 

『バカの壁』の養老先生の本を読んでいたら、人の唇というのは内臓が反転してむき出しになっているんだというようなことが書いてあった。「命短し恋せよ乙女、赤き唇あせぬ間に」などと歌うが、乙女の唇が赤いのは、いわば内臓の血管の色が透けて見えるからだとわかった。それからしばらくは人の顔を見るたびにそれが思い浮かんで仕方がなかった。我々は誰しも反転した内臓をパクパクやって言葉を発したり、そこから食物を吸収したりして生きている生き物なのだ。岩明均の『寄生獣』という漫画に、人間を喰う宇宙人が内臓むき出しの姿で出てくるが、なーんだ、我々人間もさして変わりなかったのか。

そんなことを考えているところに、日・中・米3カ国の高校生比較調査の結果とやらが報じられた。日本では、国に誇りをもっている高校生が51%だそうだ。なんだか、ライブドアとフジテレビの争いを彷彿とさせるような数字だが、まあそんなものだろうと思う。だいたい、この国に誇りを持っている高校生がそんなにいたら異常である。「国旗掲揚や国歌吹奏のとき起立して威儀を正す」高校生が30%というのもバランスのいい数字だと思う。これが50%もあったりすると、ちょっとこわいというか、気持ち悪いぞ。日本の高校生もなかなかやるじゃないか。喝采したくなった。

それから、「平日、学校以外ではほとんど勉強しない」が45%、「授業中、よく寝たり、ぼうっとしたりする」が73%というのも、普段見かける高校生たちの姿をそのまま連想させるような数字でなんだか安心した。いいんだ、いいんだ、それで。そうじゃなかったら今の社会から遊離してるよ。

これに対して、「国あっての自分」、「家あっての自分」ということを理解していないという、教育学の名誉教授の談話が産経新聞に載っていたが、完全にボケている。この学者は結論として親を啓蒙する必要があると書いているが、啓蒙する必要のあるのはご自分だということに全く気が付いていない。またある評論家は「若者に自信を持たせる環境を作り出す必要がある」と、これまた寝ぼけたことを言っている。もっとも、新聞から何かコメントをと言われてなにかしら言うしかなかったのかもしれないが…。

私はともかくこの国の高校生たちが、日本社会の現状をよく体現していることや嘘つきでないことにいたく感心した。彼らの唇の赤いのが、内臓むきだしのせいだとしてもである。