コラム
不思議な人たち
2005年6月20日
街の喫茶店が次々に店じまいして、駅前にたった一つだけ残っている古い喫茶店がえらく繁盛している。ほとんど30年前にタイムスリップしたような店で、メニューも、調度類も古く、愛想もとびきり悪いと来ている。とりえを探すのが難しいが、あえて言えば存在していることがとりえである。朝は満席になることも珍しくない。客はほとんどが出勤前のサラリーマンである。別の店でときどき見かけていた客たちもいる。行きつけの店が消えて、否応なくその店に集まってきたのだ。
その中に不思議なグループがいる。いつもたいてい最初に現れるのは40代半ばの男である。ちょっと痩せぎすの二枚目までは行かないが端正な顔立ちである。それから、しばらくして50代後半ばぐらいの眼鏡をかけた男が現れる。こっちは、けっこうくたびれている。
二人の話に聞き耳を立てていると、50代の男が「うちの会社では…」といい、「うちの娘は…」とも言っている。どうやら、二人の関係は同じ会社というわけでもなく、親戚という間柄でもなさそうだ。また、しばらくして40前後の女性が現れる。キャリアウーマン風の出勤前という出で立ちである。3人は和やかに話をして、しばらくすると、それぞれに出ていく。
何かの趣味の会だろうか。陶芸とか山歩きとか。それにしてはそんな話がまったく出ないのはおかしい。宗教団体だろうか。そんな雰囲気も全くない。副業を一緒にやっているという感じでもない。となると、工作員とかなんとか、そういうこともあるのではないか。そんなことが気になるのは、探偵ものやスパイものばかり読んでいた時期が長かったせいかもしれない。
ところで、最近読んだ歴史の本によれば、中国大陸では2世紀末に起きた黄巾の乱で、それまで5,000万人あった人口が400万人にまで激減して、そのとき中国文明は絶滅の危機にあったのだそうだ。しかし、異民族がそれを補う形で入ってきて、中国大陸は多民族社会となって存続していったことを知った。
日本列島は、ユーラシア大陸からぽつんと離れたところにあったために、例外的に多民族社会になることを免れてきた。しかし、これから長期的に人口が激減すると、やはり多民族社会となって存続するほかないだろう。それはそれで、けっこう面白いのかもしれないと思う。