コラム
永久パンの思い出
2005年10月20日
子どもの頃に読んだ読み物の中で格別忘れられないのは、『永久パン』の話である。食べても食べても、なくならないパンの話で、いつだったかなにかの雑誌で寺山修司が子どもの頃に読んだ話のベストワンに上げていて、へえと思ったりしたものだった。
今あらためて調べてみると、『永久パン』は、ベリヤーエフ少年科学小説選集に出てくる話の一つで1963年11月に発行されている。
永久パンは、ドイツのある島で全人類を飢えから解放するパンとして発明されたのだが、やがてものすごいスピードで増え続けて、洪水のようにあふれ出し、人々に襲いかかるようになる。世界中の町や村が永久パンの下に埋まり、海や川も永久パンに埋め尽くされていた。そのため、たくさんの人々が永久パン退治のために働き、世界中で労働時間が12時間に延長されるが追いつかない。政府は、最初は国家の独占事業にしたが、都合が悪くなると永久パンの発明者であるブロイエル博士一人に責任を負わせた。そうして、人類ももはやこれまでと思われたとき、ブロイエル博士の永久パンを絶滅させる研究が完成した。
やがて、永久パンから救われた人々は、晴れやかな顔で明日の糧を求めて働きに出ていく、という今読んでも面白すぎる話である。
ちょうど『永久パン』を読んでいた小学5年生の頃のことで覚えていることがある。
いつものようにランドセルをしょって登校すると、5年生は講堂に集まれという。行ってみると先生たちは手に手に棍棒を持って険しい顔をして立っていた。皆整列させられて校長先生の話が始まった。いつものように退屈な話かと思っていたら、「日本では小学5年生が多くて余っている。政府の方から、小学5年生を少なくするようにという命令が出された」と言う。これはタイヘン、殺されると、隙を見て逃げ出した。何人かの先生が棍棒を振り上げながら追ってきたが、逃げ足には自信があったので走りに走った。それで、先生たちの追っ手を振り切って学校の裏山の崖をよじ登り、山の中へ逃げ込んで、なんとか逃げ切ったところで目が覚めた。夢かうつつか。どうやら夢だとわかってからも、ほんとにそういうことが起きるような気がして、2、3日は学校に行かなかった。
以来、学校や政府というものに信を置かない感覚が膨らんで、今日に至っているような気がするのだがどうだろうか。