コラム
一人勝ちをしない
2006年7月20日
夜汽車にゆられて、福井に行った。県の職員の人たちに企業会計、公営企業会計、公益法人会計、独立行政法人会計の話をする仕事で、3日間9時から5時までのハードスケジュールである。米原まで新幹線で行って、北陸本線に乗り継ぐと聞き覚えのある駅に止まる。ああ「鯖江」というのはここだったのか、聞いただけでなんだか懐かしい感じのする地名である。福井は初めてだと思っていたが、よく考えてみたら、東尋坊や永平寺、芦原温泉などには行ったことがある。「そういうところは福井県だとみんな思っていないんですよ」とタクシーの運転手さんは言う。なるほど。「それから、永平寺は山の中だと思っている人が多いですが、意外と繁華街から近いんですよ」とのこと。それで、タクシーは夜中に永平寺の修行僧を乗せることがけっこうあるそうだ。
福井県は全国一住みやすいところだといわれている。どこが住みやすいのか、福井にいる間考えていた。それで何となくだが、福井は一人勝ちが少ないということが住みやすさにつながっているのではないかと思った。町並みを見ていると、中心部の商店街は地方都市のご多分に漏れず、あちこちにシャッターが降りた店が目立つが、それでも周辺部に行くと古い小さな商店がポツンポツンと点在してちゃんと営業している。特に大きな商店を見つけることが出来なかったので、これは一人勝ちをせずに共存していくという意識が現れた街なのではないかと思った。
その点、新幹線で途中通ってきた名古屋は一人勝ち意識が際だっている街ではないのか。駅の周りに派手に林立しているビル群が、いかにも一人勝ち意識の旺盛さを物語っているように思えた。そういえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、トヨタ、とみんな愛知県だ。
誰かが一人勝ちをすると、他の多くの人はそのままではいられなくなって、例えばそれまでの大家族がバラバラになってしまうというようなことがあるだろう。それが、福井のような一人勝ちをしないところでは、家族もバラバラにならないで、大家族が残っている。それで子育てなどもしやすいということがあるのではないか。それとなく県の職員の女性に聞いてみると、みんな年寄りや親戚が周りに多いので助かりますよという。やはり、そうなのだ。一人勝ちが少ないせいで、大家族が維持されている。それが住みやすさにつながっているのだ。
福井県の人口は約80万人。あと7、8年もすれば、日本から毎年80万人ぐらいの人口が消えていく計算になるそうだ。ちょうど、福井県の人たちがこの日本からすっぽりと消えてしまうようなものだとなにかに書いてあったが、それを実際イメージにすると恐ろしいものがある。