コラム

ごはんにかけるもの

2011年11月20日

 

ときどき行くそば屋のメニューに「卵かけごはん」が載っていたので、きっとなにか特別なものだろうと思って頼んだら、ふだん家で食べるのと寸分たがわぬ卵かけごはんだった。ちょっとがっかりもしたが、しかし考えてみたら、当然のことである。卵かけごはんは、ごはんに卵をかけるという以外にやりようがないのだから。卵かけごはんは熱いごはんで食べるのと冷や飯で食べるのとではまったく味が違うが、世界的には、主食に生卵をかける食べ方は他に例がないそうだ。

この間、ごはんにかけるのは何がいいかで話が盛り上がった。ある人はふりかけといい、丸美屋の昔の「これはうまい」を挙げた。しかし誰かが、ふりかけなら、なんといっても錦松梅ですよ、いいのは何万円もするんですからねという。

それから、でんぶやそぼろを挙げた人もいた。いくらがいい、いやそれならすじこだよ。バターはどう。ああ、バターに醤油をかけてね。いや、塩ですよ、ちょっと塩を振るんです。大根おろしやおかかも捨てがたいね。とろろ芋もそうですがとろろ昆布もありますよ。辛子明太子を忘れてませんか。焼のり、塩コンブ、ワサビ漬けなども挙がったが、さすがに梅干しを挙げた人はいなかった。

田中さんはと話を振られたので、僕は納豆とオクラかなと答えた。僕は納豆もオクラも醤油をかけてぐるぐる混ぜてからごはんにかけて、またぐるぐるかき回してから食べるんですけど、もともと正統派の食べ方は別々に食べる食べ方なんだそうですよ。へー。でもね、正統派の食べ方をしてもちっともおいしくないんだなあ、これが。やっぱり、ぐるぐるかき回して食べないと。

話は違うが、少し前に本屋で見つけて一気に読んだ『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』という本に、木村が念力で力道山を殺したという話が出てくる。昭和29年12月の蔵前国技館で行われた柔道対プロレスの一戦。誰もが「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」とまで言われた史上最強の柔道家木村政彦の勝利を疑わなかった。しかし、木村は力道山のだまし討ちにあって潰され、生き恥をさらして後半生をおくることになる。試合の後、木村はナイフを懐に呑んで力道山を付け狙ったこともあったというが、最後はナイフではなく、念力というところに木村が力道山に抱いた憎しみがどれほどのものであったかが表われている。憎い相手を念力で殺そうと思っても続くものではない。木村は自分で殺したと言い切れるほどに念じたのだ。