ロンドンの古地図

2024年5月20日

 

イギリスの作家アンドリュー・テイラーの歴史ミステリー『The Shadows of London』を丸善で見つけて読んでいる。アンドリュー・テイラーは、日本ではまだそんなに翻訳されていない。17世紀のロンドンが舞台だが、いろいろな地名が出てくるので、現在のロンドンの地図を買い、当時のロンドンの古地図をダウンロードして照合しながら丹念に読んでいくのが楽しい。

 

それだけでは覚束ないので、他に参考になる古地図や文献がないか探したが、一時間近くも丸善の本棚を狩猟した挙句、やっと見つけたのが18世紀のロンドンの案内書。ハノーヴァー王朝のジョージ1世からジョージ3世までの治世のロンドンを、『Georgian London』と呼ぶらしく、それが書名になっている。

 

『The Shadows of London』の方は、ハノーヴァー王朝の前のスチュアート王朝のチャールズ2世のころの話なので、時代は少しずれるのだが、それぐらいは仕方がない。ちなみに、チャールズ2世は稀代の女性好きといわれており、物語の中でも王妃に隠れて侍女に恋文を送るくだりは、この歴史を知らなければ味わえない。

 

主人公が貸馬に乗ってパディントン村に向かう途中でタイバーンを通過する。『Georgian London』でタイバーンを引くと、12世紀から刑場として使用されていた場所だとわかった。

 

どういう人が処刑されたか調べてみると、スチュアート王朝の前のテューダー王朝の頃、ローマ教皇から破門されたヘンリー8世がアン・ブーリンと結婚したら半年以内に死ぬと予言して反逆罪に問われた尼僧のエリザベス・バートン。ヘンリー8世と最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンの離婚に反対した殉教者の聖ジョン・ホフトン。ヘンリー8世の5人目の王妃キャサリン・ハワードと密通した貴族トマス・カルペパーと、やはりヘンリー8世の関係者が多い。

 

ほかにヘンリー8世の関係者はロンドン塔でも処刑されている。王妃のアン・ブーリンやキャサリン・ハワードが処刑されたほか、『ユートピア』の著者としても名高く官僚で最高位の大法官を務めたトマス・モアもヘンリー8世の離婚を正当化しなかったことで反逆罪に問われて斬首刑に処された。ヘンリー8世と共に宗教改革を成し遂げたトマス・クロムウェルも結局処刑されている。

 

こうしてみると、ヘンリー8世の暴虐ぶりが目立つが、こんなに多くの身近な人たちを犠牲にしたのでは、ヘンリー8世の55年の生涯も相当難儀だっただろうと想像する。